2016年9月27日(火) |
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2014年に行われた上高地での展示の時に、登山がご趣味の東北学院大学名誉教授の高橋光一先生が奥様とご一緒に、穂高に来ていらっしゃり、帰りのバス待ちの間に、たまたま展示をご見学下さいました。先生は著書の『茶碗の中の宇宙』に、ナイロンザイル事件について執筆されていて、とてもご興味をお持ちで、短い時間でしたがご熱心に見学してくださいました。そして後日、このご本をお送りくださいました。 高橋先生とのご縁は、それのみに留まらず、ナイロンザイル切断のプロセスに大変興味をお持ちになり、NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)が研究された「ザイルの科学的調査」の結果を踏まえて、この年の9月24日付で「ナイロンロープ切断のメカニズムに関する一考察」をお書きになり、当大学の教養科目の半期授業に取り入れて、講義をしてくださいました。 また、昨年12月には東北学院大学教養学部論集第172号に『〔研究ノ-ト〕熱作用によるナイロンロ-プの切断機構について』を発表されました。(研究ノ-トの文字列をクリックしてください。全文お読みいただけます) その間、先生のご研究に必要な父の論文などを提供させていただきましたが、発表された先生の「研究ノ-ト」は難しくて私には理解できず、申し訳なく思いました。 さて、この日、名古屋工業大学で行われた学会に出席された先生は、鈴鹿まで足を延ばしてお立ち寄りくださることになりました。上高地での展示以来、久しぶりにお会いすることができることになり、とても嬉しく思いました。 では、ご来訪の模様をご覧ください! |
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11:45 高橋先生近鉄伊勢若松駅到着 水野さんと前田さんがお迎えに行ってくださいました。 12:10 私の家に到着されて、ランチ懇談 |
拙い手料理をお食べいただきながらの懇談です 右より 水野さん・高橋先生・私 |
13:30 父の遺した研究所の作業室で ミニ実験装置をご披露 中央に、実験装置製作者の前田さん 水野さん・前田さんが9:30には来てくださり 実験機の調整をしてくださったにもかかわらず、今回の実験では、鋭角のステンレス製角柱の研磨がすり減っていて、3mmナイロンロ-プはうまく切れませんでした。残念‼ |
高橋先生は、2mm編みロ-プをご用意して来てくださり、それでも実験を行いました 結果は、三つ撚り3mmナイロンロ-プより強くロ-プに傷がつく程度でした。落下距離を延ばすために、錘のペットボトル受けを外して何度も実験 |
実験に使用した白色の3mmナイロンロ-プと先生ご持参のオレンジ色の2mmナイロンロ-プ 実験に使用する物が机の上に並べられている |
実験結果をまとめて、水野さんが黒板に書いてくださいました 実験後、研究所内をご案内致しました |
研究所前の山の形のオプジェをバックに |
撮影者を交代してもう一枚 |
高橋先生のご希望で、石岡家の菩提寺にお墓参りに行っていただきました |
先生は、お線香とお蝋燭もご持参で ビックリしました |
墓に詣でられる水野さん お彼岸前にお花を替えたので良いと思っていたらもう枯れかけていて、恥ずかしい思いをした私です |
前田さんもお参り ありがとうございました |
その後、一旦家に帰り懇談後、伊勢鉄道鈴鹿市駅16:16発で高橋先生はお帰りになりました。 短い時間でしたが、一期一会のひとときを有意義に過ごすことが出来ました。 ご来訪いただき、本当にありがとうございました。 以下に、水野さんが作ってくださった「ご来訪メモ」を掲載致します。 より詳しく高橋先生のご研究をご理解いただけると思います。 2016.10.17 あづみ記 |
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2016.09.27高橋光一先生石岡家ご来訪メモ 1. ご来訪のいきさつと目的:2014年7月6日に上高地の展示会を見学された高橋先生は「NITEの展示パネル」に関心を持たれ、バッカスのHPの必要部分を熟読されて、「石岡繁雄の志を伝える会」(以下「会」)代表の石岡あづみやNITEから資料提供を受け、ナイロンザイル切断メカニズムの未解明部分の研究に取り組まれ、2015年12月にその成果を、勤務先の東北学院大学教養部論集(第172号)に【研究ノート】「熱作用によるナイロンロープの切断機構について」(後述)として発表されました。この度、学会(講演)のため来名されたのを機に、下記目的の石岡家訪問が実現した。 ① 訪問日時:9月27日(火)12時~15時45分 ② 「会」応対者:石岡あづみ、水野高司、前田幸雄 ③ 目的:昼食懇談、研究所案内、ミニ実験機見学、石岡家菩提寺浄願寺墓参、母屋案内、質疑・懇談 2. ミニ実験機による実験結果; ① 事前試験・調整にも拘らず、3mmの三つ撚りナイロンロープの切断実験は、面取り無しで明確に切れたのは5本中1本のみであった。高橋先生からも刃の再研磨を勧められ、今後対応を要す。 ② 先生持参の2mm芯入り編みナイロンロープは、面取り有無共に切断せずに表面は無傷に見えたので、落下距離を床スレスレまで延ばして、4本・計6回テストしてみた。その結果は、明確な傾向とは断言できないが、伸びの大きいものは表面傷は小さく、伸びの小さいものは傷は大きい。また、面取り有りの刃で傷が小さくできたロープを、面取り無しの刃で再テストすると、表面傷は拡大しており、内部は更にダメージを受けていることが予測でき、一度荷重のかかったザイルを再使用することは避けるべきと思われる。 ③ 9月28日付高橋先生からのメールでのコメント:3mmロープではいくつか(数えたわけではないが印象として全体の3割程度)に溶融らしき変化の跡が見られた。2mmの方では、ほぼ全てが剪断切断の様相を呈していた。3mmロープで溶融が起きていた可能性があるというのは意外だったが、そうだとしてもその割合が少なさそうであるというのは私の仮説(注:高橋先生は「細いロープでは圧縮による発熱は小さいので溶融による切断は起きにくい」という仮 説を立てられている。)と矛盾はしない。荷重を1kgからさらに増やしたときにどうなるかも興味ある(私の予想は、溶融の割合は少ないままであろう)。⇒ 今後追加テストについても検討要す。 3. 懇談・案内・【研究ノート】など(順不同); ① 先生は福島県のご出身で、曲がったことが嫌いな真の科学者魂をお持ちの、バッカス石岡先生に通じる方である。山好きで、安達太良山など地元の山が多く、前穂高は経験あるが、パノラマコースは屏風のコルまでで奥又白下降ルートは未経験の由。著作で上高地の「西岡山荘」は「西糸屋山荘」なるも、「茶室」はあくまでも仮想で、現西糸屋のご主人は「茶室を作るなら、従業員宿舎を建てたい」とおっしゃっている由。 ② 学者は企業と結びつくとどうしても企業のための仕事をしてしまい勝ちであり、昨今の研究者に求められている企業から予算を取る風潮を心配されていた。 ③ 体調のこともあり、現在は教職からも身を引きフリーのお立場の由(先生の経歴等は後述)。 ④ 後述の【研究ノート】「熱作用によるナイロンロープの切断機構について」の結論の4つの「切断メカニズム」をグラフ化もしくは図示できないかお聞きしたところ、先生の結論はあくまでも「非専門家」の仮定であるので、望むらくは(「山好き」で)「非ニュートン流体」の専門家に解明をしてもらうのが望ましいとお話あり。 ⑤ 更に、もし仮に石岡繁雄先生が高橋先生とお知り合いになれて、【研究ノート】の内容をお話できる機会があったとすれば、いつ頃以降なら可能だったかお尋ねしたところ、多分10~15年くらい前以降でしょうとのことであった。 ⑥ 短時間で十分な対応ができず心残りであったが、先生からは望外のご評価をいただき恐縮す。 ⑦ あづみから先生の再訪を求めたところ、仕事での来名機会はないかも知れないが、旅行で伊勢志摩方面に来られた際の再訪はありうる由。 (以下は「会」メンバー用参考資料) 4. 高橋先生のプロフィールなど(先生のHPより); ① 生年:1948年 ② 専門:素粒子論、個体物性論、原子核論、宇宙物理学、流体力学 ③ 研究テーマ:量子カオス及び関連した逆問題と力学系(副テーマ:意思決定論) ④ 好きなこと:山を歩き、温泉に入りながら山をみて俳句をひねること。 ⑤ 現職:東北学院大学非常勤講師、同大学人間情報学研究所客員研究員、日本物理学会員、アメリカ物理学会員、… (Web上の)自由大学 情報学科 教授 ⑥ 作家「文遥一」としての著作:「茶碗の中の宇宙」(2011年、仙台金港堂出版)、「教室の中の宇宙」(2000年、東京図書出版会) ⑦ 著作:「物質と宇宙の科学」(1986年、杉山書店)、「宇宙・物質・生命(増補版)」(2004年、吉岡書店)、「安全―その幻想と現実―(共著)」(2003年、日本化学研究会、丸善)他 5. 【研究ノート】「熱作用によるナイロンロープの切断機構について」(詳細は先生の本文参照のこと); ① 論文の内容は、摩擦による発熱量の算出式など私たち「会」のメンバーには難解な数式が含まれているが、論旨は非常に明確で、従来「ナイロンザイルは摩擦熱で切れるのではなく、あくまで鋭い岩角での剪断によって切れる」と信じていた私たちの目を覚まさせてくれるものである。 ② 高橋先生は、石岡繁雄先生が35年間かけて研究したナイロンザイルの実験と考察を検証し、下記2つの未解決の問題を、NITEの実験結果も踏まえて最新科学の視点で再検証されたものである。 ③ 石岡の第1問題:ナイロンロープの切断において、どのような機構が塑性変形と破壊をもたらすか?いわゆる0R切断角によるナイロンロープの切断時の衝撃力は、錘の落下距離が増えると小さくなる。そのメカニズムは? ④ これについての高橋先生の考証結果による推論は、「切断角からの圧力がもたらすロープ表面及び内部温度上昇によるナイロン繊維の変性と破壊応力発生の同時的進行による切断」であり、「もしロープ表面及び内部温度上昇が(室温での)破壊応力発生よりわずかでも早ければ、温度上昇がロープ切断の主要因となり、切断角の熱的性質によらない」というものである。 ⑤ 石岡の第2問題:切断荷重は、落下距離が0mの時よりも、落下距離が有限の場合が明らかに大きくなるのはなぜか? ⑥ これについての高橋先生の考証結果による推論は、「落下距離がある程度大きい時は、ナイロンは融解=ナイロン分子の相互拘束が緩んでくる」。この場合、ナイロンは「フックの法則に従う弾性を示すと同時にニュートンの法則に従う流体(粘弾性体)」と「フックの法則から外れた塑性を示すと共にニュートンの法則に従わない流体(外力に単純に比例しなくなるダイラタント流動化)など」の多様化した性質を持つ。 ⑦ 高橋先生が描く「鋭い切断角によるナイロンロープ切断メカニズム」(但し、結論の正否は今後の分子構造も視野に入れた物性論的な研究によって判断されると明言されている); ² 落下距離が短い時:ナイロンロープは機械的剪断力で破壊する。 ² 落下距離が増加とともに…:圧縮力による(広義の)溶融がロープ内で起き始め、溶融領域が増大する。未溶融領域の減少に伴い弾性係数は減少し、切断時の衝撃も減少する。 ² 落下距離が更に長くなると、短時間内に更に大きい溶融領域が形成され、切断角に近いロープ内の一部が高粘性の粘弾性流体化またはダイラタント流体化する。これは衝撃力を一旦増加させる効果を生む。 ² 落下距離が更に伸びて溶融領域が十分に大きくなると、弾性係数の減少効果が高粘性流体化の効果を上回り、切断時の衝撃力は再び減少する。 以上(2016.10.01 文責:水野高司) |